第7話 山の日は暮れるのが早すぎる

「いやあ運が良かったね。たまたま団体さんが来ちゃったけど、ツイン一部屋だけ残っているよ!」

 宿の受付のお姉さんが、キラキラとした笑顔で教えてくれた。同室だなんて、そんなフラグ回収したくなかった。
 私が悲しみに打ちひしがれている横で、おじさんはさっさと手続きを済ませていた。

「それにしても、お二人はどういう関係? ダァトの悪魔さんはいつもなら一人で来て、とっとと山奥に引きこ……帰って行くのに」

 お姉さんが心底不思議そうに言う。そして、また出た『ダァトの悪魔』。

「姪だ。これの両親、つまり俺の兄夫婦が蒸発した。それで、俺を頼ってきたのだ」

 なるほど。真実を混ぜた嘘は本当のことに聞こえる。私はそこまで考えていた訳じゃなかったけど、叔父と姪っていうのは上手い設定だったね。

「あれま、ダァトの悪魔には兄弟が居たのね」
「何度も悪魔悪魔と、やめてくれないか」
「あれだけ大暴れしちゃ、そうそう忘れちゃもらえないよ」

 お姉さんはくひひっと笑った。

「大暴れって、おじさん。何したの」
「おや、姪っ子ちゃんは知らないのかい。こいつがこの村に越してきたのは10年くらい前だったけども、あの頃は世の中みんな敵! みたいに荒れててねえ。いや、私も十そこそこだったから詳しくは覚えてないんだけど、あの爆発には驚いたよ」
「爆発」
「で、誰が呼び始めたか、付いたあだ名が『ダァトの悪魔』ってわけさ」
「おじさん、ホントに何してたの」
「若気の至りだと言っただろう。行くぞ」

 おじさんは部屋の鍵を受付のお姉さんに返すと、さっさと行ってしまった。

「えっおじさん、どこ行くの。待ってよ」
「外出ですねー。行ってらっしゃーい」

 そう言って、お姉さんは手をひらひらと振った。



 そんなわけで、私達は商店街へと繰り出していた。
 けっして大きな街というわけではないけれど、確かに生活に必要なものは何でも揃いそうな店の並びだった。

「どこから見ていきたい」
「とりあえず最優先は着替え! いくらシャワー浴びたって言ったって、また同じ服着てるんだもん。てか、学校の制服だし。あとは、マジックバッグだっけ? あれ私も欲しい」
「では、まず服屋から見ていくか」

 こっちだ、とおじさんはすたすた歩いていってしまう。ウィンドウショッピングっていう概念はないのかもしれない。
 途中で猪の換金をしてもらいつつ、3軒の店を回って服やら鞄やらを揃えてもらった。猪って肉だけじゃなくて、牙とか内臓とかにも値段がつくんだね。いや、正確には猪的な何かなんだけど。
 服屋の方はといえば、ろくに試着もしていないのに、私がちょっと目を向けただけの服を、おじさんはバンバン買おうとするからびっくりした。

「こういうのは何着も必要だろう。いちいち時間をかけて選んでいたら、いつまで経っても出発できないぞ」

 とか言っちゃって、最終的には「棚のここからここまで全部買う」とか言い出しかねなかったので、何とか5着くらいに絞った。
 鞄はショルダータイプの革の鞄を買ってもらった。旅をするなら両手は使えた方が良いだろうけど、リュックだと出し入れが面倒くさそうだし、ウェストポーチはいまいちだった。後でマジックバッグに改造してくれるって。
 他にも後から櫛やら歯ブラシやらあれが欲しいこれが欲しいと、思いついては買ってもらううちに、だんだん日が暮れていった。ぽつぽつと閉店札を軒先に掛ける店も出てくる。

「もう閉まるの?」
「山の日は暮れるのが早いと言っただろう。そろそろ宿に戻って夕飯にするか」
「はーい」

 宿に戻れば先ほどのお姉さんが「お帰りなさーい」と迎えて、鍵を渡してくれた。
 部屋に荷物を置いて、私は先に軽く着替えさせてもらってから二人で食堂に向かった。

「すごい人混み」
「こんなに混んでいるとは……ああ、団体客も来ていると言っていたか」

 見れば、席に着いている人はだいたい皆お揃いの制服を着ていた。

「でも、満席じゃなくてよかったね。あの辺とか空いてる」

 そう指さした先に向かって、女将さんが「ちょっと退いとくれー」と器用に人を避けながら、大盛のパスタを運んでいった。

「すっごい大盛り。あれ何人前だろう」
「どうやら一人分らしいぞ、ほら」

 空いていると思ったあたりには、どう見ても10才かそこらの少女が座っていた。
 その席の周りには山盛りの唐揚げやらポテトサラダやら、大皿に積まれたソーセージやら、どんぶりサイズを超えた大きさの器のスープやら、とにかくビッグサイズの料理が並んでいた。そこに、今運ばれていった大盛りパスタが加わる。

「わぁお……」
「しかし、二人揃って座れそうなのはあの辺りだけだな。行くぞ」
「はぁい」

 かくして、私達は大食い少女の向かいの席に着くことにした。