第11話 私はこの人と旅に出る
場所は変わって、私とおじさんと軍の偉い人達イン・ダァト村の村役場の会議室。
大きなテーブルを挟んでこちらに私とおじさん。あちらにはゲ○ドウポーズのルゼちゃんと副官ポジションのライさん。テーブルの上には黄金板のペンダント。
ルゼちゃんは口調こそユルくなりかけてるけど、視線は人の上に立つ者の厳しさそのまんまだ。むしろ、口調のほうが司令官モードのままだと威圧的になりすぎるから、意図的にユルくしようとしているのかもしれない。
「いえ、本当に心当たり無いんです……」
謎の波動が出ているとは母の談だけど、邪龍捕獲機能があるなんて聞いてない。隣に座るおじさんに、ついキツい視線を向けてしまう。
「大丈夫だから、そんなに不安そうにするな。俺はこんな風に作ったつもりはない」
私の心は全くおじさんに伝わっていなかった。そんな不安げに見えるんだろうか。
おじさんの発言にライさんがぴくりと眉を動かす。ルゼちゃんも表情が変わる。
「『作った』?」
「ああ、俺は魔術師だからな。それは手遊びに作ったお守りみたいな物だ。確かにまじないをかけたが、ささやかな幸福を祈るものだ」
「なら……この古代マルクト文字自体に、瘴気が反応したのかな」
ルゼちゃんがしげしげとペンダントを観察する。
「文字の色が一つだけ違うように見えるけど、元々のデザインかな?」
「いいや」
「では、そこに瘴気が封じられている可能性があるね……持ち帰って分析してみたいところなんだけど、これを譲ってもらっても良いかな?」
「だめっ!」
つい立ち上がって拒否してしまった。でも、現状これが唯一の両親の手がかりなのだ。手放したくない。
おじさんが、大丈夫だというように私の肩に手をかける。その手に促されて、私はまた椅子に座った。
おじさんが口を開く。
「それは勘弁してやってくれ。アンの両親を探す唯一の手がかりなんだ」
「そう言えば、両親を探しに旅に出たいって言っていたね」
しばし沈黙が場を支配する。
風が窓を揺らす音がする。知らない鳥の鳴き声が聞こえる。森の見慣れない木々のざわめきまで聞こえてくるようだ。
不意に、ライさんが口を開いた。
「では、我々と一緒に来るのはいかがですか」
その場の全員の視線がライさんに向く。
ルゼちゃんは納得したような顔をした。
「なるほど、我々は瘴気を追って全国を駆け回る。そちらからすれば、旅の護衛ができるようなものだ。目的地が決まっている旅ではないのだろう? お互いの利となる話だと思うんだけど、どうかな?」
ルゼちゃんはおじさんに向けて、こう言った。
おじさんは私に視線を送ってきた。
「あちらはああ言っているが、アンはどうしたい」
「わたし?」
「ああ、ここから旅に出たいのはアンだ。一緒に行けば俺よりもよっぽど頼りになる護衛になるだろう。同時にそのペンダントを付け狙う、お前にとっては不届きものにもなるだろう。一緒に行くのは不安だと思うのも、アンの心次第だ」
おじさんは小声で付け足した。
「それにお前からすれば、俺もあちらの軍人も、出会ったばかりの人間には変わりないだろう。見知らぬ世界で、より安心して過ごせるに越したことはない。出会ったばかりの俺ではなく、自分の心で決めなさい」
そう言って、おじさんは私の答えを待った。
確かに、おじさんとの出会いとルゼちゃん達との出会いの差は、たったの一日だ。
それなのに、私ったらすっかりおじさんの事を自分の保護者のように錯覚していた。形見のペンダントの製作者とはいえ、冷静に考えればおじさんは、アダムさんはたまたまそこに居ただけだったのに。
「そう、だよね。アダムさんは元々この村の人だし、なんですっかり頼り切りになっていたんだろう」
「それに関しては気に病まなくていいぞ。お前の事情に巻き込まれてやると決めたのは俺だ。お前は、お前の旅の安全を考えろ。……軍に付いて行くから俺は必要ないというのも、それもあり、だ」
アダムさんは顔を歪めた。
「あ、違うの。アダムさんが邪魔とか、そういう意味じゃなくて、巻き込んじゃって申し訳ないというか、ああ、でも気にするなって言ってくれていて」
私はすっかり混乱していて、自分でも何を言っているのかわかっていない。私はこれから、どうしたらいいんだろう。シンプルに考えよう。私は、旅に出たい。誰に同行してもらうのか、それが問題なのだ。
よほど不安げに見えたんだろうか、アダムさんがふいに私の頭を撫でた。
「もう、『おじさん』とは呼ばない気なのか?」
「嫌なんでしょう?」
「いや……自分で名乗っておきながら、いざそう呼ばれると距離を置かれたように感じて寂しいものだな、と。俺はお前の『おじさん』だ。それでいい。お前には俺を頼る権利がある」
誰に同行してもらうのか。もう最初から一人は決まっていたよね。
でも、二人旅だと心細いのも確か。そこに思惑はさておき、同行すると名乗りあげてくれている人たちがいる。
もう、それに乗っかるしかないよね。私、この世界のことなんにもわからないんだから、頼れる知り合いは一人でも多い方がいい。
「わかった。付いて来て、おじさん。それから、そちらのお申し出もありがたいと思います。戦闘力にならないと思うけどいいですか?」
「もちろんだよ。というか、民間人を保護するのに戦闘力など気にしない。むしろ、こちらから研究に協力を依頼する立場なんだ。遠慮なんかしないでほしい」
「隊長がこう言っていますので、ご遠慮なく」
ルゼちゃんもライさんも頷いてくれた。
「では、これからよろしくお願いします」
こうして、私は旅の心強い仲間を得たのだった。つづく。
「ところでおじさん、レディの頭を急に撫でたりしちゃダメなんだからね」
「すまない、しかしいつもの調子を取り戻したようでよかった」
おじさんは私に手をぺいっと払いのけられて、嬉しそうに目元を緩めていた。